今回は、僕が韓国で農家向けセミナーをするまでの物語を綴ります。

1. たまねぎで繋がった、国際交流

2024年12月、いつものようにInstagramに投稿した、野口ファームのたまねぎの苗づくり動画。
その投稿に、思いがけないコメントが届きました

「私は韓国で玉ねぎの育苗に困っている者です。アドバイスをいただけませんか?」

(実際のメッセージ)

正直、びっくりしました。
でも、そのコメントからは「本当に困っている」という真剣な気持ちがビシバシ伝わってきて、思わずすぐに返信。
僕の経験や知識で少しでも役に立つならと、できる限りのアドバイスを送りました。

すると、、

 「ぜひ淡路島の野口ファームの現場を見て学びたい!」と、なんと1ヶ月も経たないうちに、韓国から6名の視察団がやってくることに!

(実際に淡路島に来てくれた時の写真)

これには僕も驚きました。
「自分たちのやってきた農業が、まさか海を越えて必要とされるなんて!」
農業って、本当にすごい。そう実感した瞬間でした。

2. 韓国の「農村振興庁が見てくれたSNS

今回のきっかけは、まさかのSNSでした。
僕たちが普段発信しているInstagramやFacebookの投稿を、韓国の農業研究機関「農村振興庁」の職員、李忠根さん(以下、李さん)が見てくれていたんです。

(左が李さんです)

韓国では、たまねぎは主力作物の一つ。でも、苗づくりがうまくいかず、機械化もうまく進んでいないという課題があるそうで……
そこで目に留まったのが、野口ファームの苗づくりだったそうです。

やり取りを始めてすぐに「これは現地でぜひ学ばないと!」と、李さんはすぐに視察の連絡をくれました。

実際に送られてきたメールには、こんな内容が書かれていました。

「ノグチファームを訪れて、露地育苗の技術を学びたい。
併せて、収穫や栽培全般のことについてもぜひ意見を聞かせてほしい。」

年末の忙しい時期でしたが、李さんたちの熱意にこちらも気合が入りました!

当日は韓国から6名が来島。
しかも、事前にしっかり準備されていて、30個以上の質問をまとめたドキュメントまで用意してくれていました。 本気度がすごい……!

僕たちも気合を入れてお迎えし、野口ファームの圃場を見てもらったり、苗づくりの工夫についてじっくりお話したり。
気づけば、あっという間の濃い一日になりました。

3. まさかの正式招待!韓国農村振興庁からの熱烈オファー

視察から約1ヶ月後、韓国の李さん(農村振興庁)から、再び熱のこもった連絡が届きました。
メールを読んで、正直びっくり!その内容は、、

「野口さんから学んだ苗づくりの技術を、庁長と国立農業科学院の院長に報告したところ、ものすごく高く評価されました!
“これは本格的に韓国でも取り入れていくべきだ”と、すぐに予算の承認が下りました。
ぜひ韓国に来ていただき、実際の育苗現場でのコンサルティング指導をお願いしたいです!」

まさか、SNSで始まった一つのコメントのやりとりが、ここまで発展するとは……。
日本の一農家が発信していた情報が、海を越えて公的機関を動かしてしまったんです。

招待の内容は、
2025年5月に実施される「たまねぎの1次育苗試験」のタイミングで、韓国の現地に赴き、圃場を見ながら技術指導を行ってほしい。
さらに、たまねぎに関するセミナーを2本行ってほしい、というリクエストでした。

しかも、滞在中の航空券・宿泊・食費などはすべて韓国側でサポートしていただけるとのこと。
韓国側の本気度と歓迎の気持ちが、こちらにもひしひしと伝わってきました。

「そこまで言ってくれるなら、もうやるしかないでしょ!」
即答で「行きます!」と返事をして、野口俊、初の“韓国出張”が決定しました。

4. 海を越えて伝える、たまねぎ育苗の技術

韓国滞在は2025年5月25日〜31日の1週間
この間に2本のセミナーと現地の圃場でのコンサルティングを行いました。

1本目:韓国農村振興庁でのセミナー

対象は農村振興庁の職員、研究者、行政関係者の方々。
テーマは「高品質なたまねぎ育苗について」

まずは僕の自己紹介から始まり、野口ファームのこれまでの軌跡、そして本題である「苗床の土づくりの考え方」や「一つ一つの細かい作業の意味」さらに「なぜこの作業が必要なのか?」を、スライドや動画を交えながら約1時間じっくりお話しました。

特に強く伝えたかったのは、日本の農家の間で昔から言われてきた言葉

「苗、半作」

これは、“良い苗を育てられたら、もう半分成功したようなもの”という意味。逆にいえば、苗づくりを失敗してしまえば、その先の栽培もうまくいかない。それだけ重要な工程だということを伝えるために、この言葉をあえてそのまま日本語でお話しました。

参加者の皆さんは本当に真剣で、機械の仕様や作業手順、資材の形状など、かなり具体的な質問が次々と飛び交いました。
こちらの熱も自然と高まり、時間もオーバーしてあっという間でした!

2本目:咸陽郡での農家向けセミナー

2本目は、韓国の新聞にも取り上げられた咸陽郡でのセミナー


▼新聞記事はこちら
http://www.gndomin.com/news/articleView.html?idxno=436306

ここでは参加者の全員が農家さんでした。

現場の作業にすぐ役立てられるよう、より細かく、実践的な話を意識して伝えました。もちろん、ここでも一番伝えたかったのは「苗、半作」です。

さすが地域を代表する農家さんばかりで、質問内容もとても実務的
「この技術を自分の圃場に落とし込むとき、何に気をつけるべきか?」
「現地資材で代用する場合のポイントは?」
といった深掘りの質問が多く、質疑応答では農家同士で議論が始まる場面もあり、会場全体の熱量がものすごく高かったです。
もちろん農家さん同士なので韓国語。僕に伝える通訳の人が大変そうでした!笑

そして実は、、
この2本のセミナーには“秘策”を用意していました。
それは20年前、僕がオーストラリアに住んでいたときの韓国人シェアメイトから教わった韓国語です。
セミナーの冒頭で、「キムチチゲあるからご飯食べていいよ」と「洗濯機が壊れた」というフレーズを披露したら、これが大ウケ!想定通り一気に会場が和やかになりました。笑

やっぱり、現地の言葉は距離がぐっと縮まりますね。

5. 現地で見た“本気”と“可能性”

咸陽郡での現場コンサルティングでは、農家のLeeさんの圃場を訪問しました。
実はLeeさんは、淡路島に来てくれた視察団の一員。そのときの学びを、現地で見事に再現してくれていました。

そして、目の前に広がる圃場を見て驚きました。
メールでのやり取りと一度の視察だけで、再現度はなんと60〜70点!風景も淡路島そっくりで、「ここ淡路島やっけ?」と錯覚するほどでした。

現場では、試験中の苗の状態や水やりの管理方法を一緒に確認しながら、さらに精度を上げるための改善点をアドバイス。残りの30〜40点については、すぐに目についた部分で言うと、畝の広さ、鎮圧ローラーの仕様、被覆ネットの固定方法、谷の管理などですが、すでに僕が経験して答えを持っている点ばかりで、これならすぐに改善できると確信しました。

本当の課題は、、
・ハード面:日本で使っている資材や培土が韓国で入手できるか?代わりを作ってくれるメーカーはあるか?
・ソフト面:追肥や剪葉、防除のタイミングを、その土地の気候に合わせてどう最適化するか?
特にソフト面は、地域や農家同士の情報共有が鍵です。1年に1回の経験でも、10人で協力すれば10倍の知見になります。

韓国の農家や農村振興庁の方々は、本当に真剣にたまねぎに向き合っていました。僕のアドバイスに「なるほど!」と反応し、さらに深掘りしてくるやり取りは、久しぶりに農業の現場で熱く議論ができた時間でした。

そのあとも、現地の販売業者(日本のJA)にも足を運び、現状の課題や韓国の流通システムなどを意見交換させていただきました。韓国では、出荷までに生産者が請け負う工数が、日本よりも少なく、より生産に集中できる点において、規模の拡大がしやすく、ここは大きな利点です。
しかし、生産コストの増大と販売価格の不安定さは日本と同じく問題を抱えている印象でした。

それにしても、淡路島と咸陽郡は、風景も文化もよく似ていました。
特に水田でたまねぎを育てる“二毛作”はまさに同じで、だからこそSNSで野口ファームの技術を見た時に「自分たちにもできる」と直感的に感じてもらえたのかもしれません。

6. 淡路島から世界へ、海を越えた農家の未来

今回の韓国訪問は、SNSから始まったご縁が、大きなプロジェクトに発展した奇跡のような体験でした。
そして何より心に残ったのは、韓国の皆さんの“本気”です。現場で土を触り、改善点を議論し、すぐに行動に移そうとするその姿勢に、農業への情熱と地域を良くしたい思いを強く感じました。

9月からはいよいよ、一次試験の成果を踏まえて本格的な玉ねぎ栽培がスタートします。僕も引き続き全力でサポートし、韓国のたまねぎ栽培がより持続的で競争力のあるものになるよう、一緒に進んでいきます。

農業は国境を越えて共有できる“人類共通の財産”。

だって「食べ物がないと人は生きていけないから」
世界的にはまだまだ人口が増え続ける中
「食を育てる」という共通言語で世界の農家同士が協力し合えたら素敵ですよね

僕はこれからも、淡路島から世界へ、たまねぎを通じた笑顔とつながりを広げていきたいです。

最後に〜SNSがくれたご縁に感謝〜

韓国滞在中、本当に多くの人たちが親切に接してくれました。
短い期間でしたが、たくさんのかけがえのない出会いがありました。

セミナー後には農村振興庁のみなさんと街へ繰り出し、美味しい料理とお酒を囲んで乾杯。気づけば全員がマッコリ仲間に!笑
農家の友人も一気に増え、日本と韓国の違いや栽培・販売・機械の話で盛り上がりました

Leeさんは予定になかったのに自宅へ招待してくれ、奥さんと一緒に苦労話やこれからのビジョンを語ってくれました。「次こそは泊まって帰ってね!」という温かさに胸が熱くなりました。兄貴!絶対戻ってきますー!

お世話になった飲食店のおかみさんも、日本から来たと伝えるとお土産まで用意してくれました。

こんなにもたくさん素敵なご縁をいただけたのは、SNS発信を続けてきたご褒美だと思います。

SNSを続けているとこんなにも世界が広がるんだ!

改めてSNSの大切さと可能性を実感する韓国渡航でした
次はどんな出会いがあるのか?!
新しい出会いを少し期待しながら、これからも発信を続けていきたいです。

韓国では、どの料理も本当に美味しかった!
本当にお腹いっぱいになるまでいただきました。

そのせいか。。

帰国時の空港ラウンジでも、気づけば無意識にキムチを山盛りに!笑
僕の身体は、1週間で見事に韓国仕様に順応したのでした。

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